その時、ピンクのコートの女性が足をパタッと閉じ、手をスカートの上に置いた。
好美もハッとして我に返り、近づいていた棚から慌てて目を離した。
棚の隙間から女性の顔がはっきり見える。視線がぶつかった。
(ばれた!)心臓が早鐘を打ち始める。
顔の血管が膨張して頬のあたりがジンジンした。
好美はダッシュで図書館の奥の勉強机に戻ると、持ってきた勉強道具を鞄に投げ込み、できるだけ人の注意をひかないように早歩きで図書館を飛び出た。
図書館を出る間際、オープンスペースを振り返ると、すでに女性の姿はなかった。
係員でも呼びに行ったのだろうか。
(まずいまずいまずいまずい)図書館の扉をなんとか抜けると、好美は走り始めた。
建物のドアまではもうすぐだ。
よし。
抜けた。
障碍者用に設けられた小さめの駐車場を横切り、植え込みを抜けて歩道に出る。
とりあえず一番近い地下街に入ろう。
まだ心臓がドキドキしている。
変な早足で好美が歩き始めたとき、後ろから声がかかった。
ねえ。
ねえ、ちょっと。
明らかに自分に向けられていると分かる女性の声に、好美の足は震えた。
膝から下に血が溜まったような重さをジンと感じて思わずよろけそうになる。
倒れないようになんとか踏ん張りながら、首だけでもと振り返る。
視線を回して風景が流れていくその瞬間がやけに長く感じた。
そして視界の端にピンクのコートの女性が映る。
立ち止った好美に対して2,3歩進み出た女性が、さらに追い打ちをかけるように言葉をつないだ。
あなたさっき覗いてたでしょ。好美の心臓は、ぎゅっとつかまれたように痛くなり、足元から滑り落ちていくような絶望的な感覚に捕らわれた。
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