件の親分さんの屋敷に着いたのは夕方の早い時間であった。
広い屋敷の隣はトタン作りの工場のようになっており、だぼシャツ姿の兄さん方が明日の準備かトラックへの出店の積み込みをやっていた。
タケシはその工場の隅っこに車を停め、兄さん方に軽く会釈しながら、屋敷の玄関に入っていった。
昔ながらの造りの家である。玄関をくぐると、一瞬、空気がシンとしたような気がした。
雰囲気に押されまいと、タケシは大きな声を張り上げた。
ごめんください。
その声に応えて、屋敷の奥から現れたのはスーツ姿にリーゼントのいかつい男だった。
兄貴、スーツじゃねーかよー。俺、Tシャツとジーンズで来ちまったよー。とタケシは思ったがもうしようがない。負けられない。
はい。なんでしょう。
神奈川の○○会の楠と申します。富津のお手伝いに参りました。親分さんにお目通りを。
お待ちください。
男が立ち上がって奥に退こうとすると、座敷の方から声が聞こえてきた。
聞こえた。聞こえた。上がってもらえ。
はい。どうぞ。
房総の親分さんの声だろう。いよいよ緊張マックスである。タケシは靴を脱いで端に揃え、男の後について座敷の入り口に立った。
失礼します。
深々と下げた頭を上げると、座敷の真ん中にはベッドが置かれ、柔和そうなおじさんが半身を起こしていた。
タケシは男に導かれて少し離れた場所に正座をした。親分の目を見据えた後に、再び頭を下げる。
初めまして。神奈川の○○会の楠と申します。○○に言われまして富津のお手伝いに参りました。
うん。無理を言ってすまないね。遠いとこ良く来てくれた。
雰囲気に飲まれまいと気張って声を張り上げるタケシに対して、親分さんは物腰の柔らかい声だった。
○○からくれぐれ宜しくと。それと、これは藤沢の叔父貴からの託けです。
藤沢っていうとあれか。源ちゃんか。あいつは元気にしてんのかい。
あ、はい。なかなか私ではお会いする機会もありませんが、元気にバイしてらっしゃいます。
そうかそうか。あいつも律儀だな。
親分さんの眉が垂れ下がり、昔を懐かしむような顔になった。
あいつが食えないときに利根川のアサリ掘らせてたの俺なんだ。わっはっは。
はい。酒の席で叔父貴から聞かされております。
そうか。そうか。わっはっは。げほげほ。
いかつい男がそろそろとタケシに目配せし、親分!とベッドの傍に移った。
うん。分かった分かった。じゃあ悪いけど明日は頼むよ。あと神奈川にもよろしくな。
はい。承りました。
タケシは再び深々と頭を下げ、男に導かれて座敷を後にした。
時間にすれば10分も経っていないのだが、背中には汗をかいているようだ。しかし、タケシはなんとかやり切った感じでほっとしていた。
と、ここでいかつい男が「若い人たちに」と内ポケットから封筒を取り出した。
そんな展開は予想もせず、どうして良いか分からなかったタケシがまごまごしていると、「こういうのはもらっとくもんだ」とやっと男が笑った。
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