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2015/05/23

5月の夜、遠藤リカコは東西線に揺られていた



5月の夜、遠藤リカコは東西線に揺られていた。
金曜の夜だというのに車内はそれほど込み合ってなく、座ろうと思えば空いている席もいくつかあったのだが、リカコは出口近くのバーに背中を預けて立ち、外の景色を眺めていた。

今、リカコは恋人の楠木タケシの待つ津田沼へと向かっていた。
リカコは東京生まれだが電車で千葉方面に向かったことはあまりなかった。精々、ディズニーランドに遊びに行ったことがある程度だ。

(総武線の方が良かったのかなあ・・・)

待ち合わせは23時なので時間的には十分余裕があったが、慣れない駅での乗り換えは不安だった。
スマホで電車の接続を確認したついでに、先ほどタケシに送ったLINEのメッセージを見てみたが、既読はついていなかった。
既読になれば返事くらいはくれるはずなのだが。

(まだ挨拶が終わってないのかなあ・・・)

あまりタケシの仕事の邪魔をしてもいけないので追加のメッセージを送るのは気が引けた。
リカコはふうとため息を一つつき、再び窓の外の景色に目をやった。



リカコは新宿生まれの新宿育ち。ウィンドサーフィンが趣味の20歳の女子大生だ。
いや、ウィンドサーフィンへの思い入れは既に趣味の範疇を越え、いくつもの大会に出るなど将来はプロになりたいというくらいの惚れ込みぶりだった。

リカコの父親は貿易会社の役員をしており家庭的には裕福だった。
またリカコの父親自身も二級小型船舶免許を持つほどの海好きであり、プロウィンドサーファーになりたいというリカコの夢に口を出すことはなかった。
母親も「大学くらいは卒業しなさいね」と小言を言う程度で、大学の単位さえ落とさなければ口やかましいということもなかった。

活発で明るいリカコには大学での女友達も沢山いたが、チャラ男が集まったウィンドサークルにはいまいち馴染めなかった。
そのためリカコは、平日は真面目に大学に通う一方、休日は父親のお古のボルボワゴンにウィンドを乗せ湘南へと足繁く通っていた。
真面目にウィンドに取り組む、湘南の友達の輪のほうが気持ちよかったのである。

今の恋人の楠木タケシとは、去年の夏の始まりに、そんな湘南で出会ったのだった。
 
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  2. 美人専用逆ナンパシークレッツ ~ たくさんの美人が向こうから勝手にあなたにすり寄ってくるこの魔法を知りたくはないのですか? ~
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2015/05/22

ねえねえ。お姉さん。一人じゃん。俺らも東京から来て二人で寂しくてさあ(笑)



ねーさーん、ジェットスキー乗ってかなーい。

小麦色に焼けた肌、豊満な胸、スラリと伸びた肢体、長い髪を風になびかせて浜辺を闊歩するリカコはよくナンパされた。
この日も早朝からウィンドの練習をし、車で仮眠をとった後に、朝昼兼用のご飯を食べようと浜辺を歩いているところに声をかけられたのだった。
高い声に反応してふっとそちらの方を見ると、声の主はジェットスキー屋の店番のお兄ちゃんだった。
海に浮かれたヤンキーがこうして絡んでくることはあったが、店番のお兄ちゃんが声掛けしてくるのは珍しかった。
夏らしく真っ黒に焼けてはいるが、麦藁帽の下には幼さの残る可愛らしい顔。高校生だろうか。

あっはっは。ちゃんと仕事しなー(笑)

僕ちゃんの可愛い声掛けをリカコは笑っていなした。

海の家に着くとリカコは馴染みのおばちゃんのソース焼きそばを食べ、フローズンソーダを飲んで休憩した後、昼食時で忙しくなったお店の皿洗いを手伝った。

リカちゃん、いつも悪いねえ。
いいのよ、おばちゃん。あたし夕方まで暇だし。
今日は泊まるの?
うん。いつもの合宿所で雑魚寝。明日早いし(笑)
そうか。夜も食べにおいでよー。
うん。そうするかも(笑)

大学に入ってからずっと湘南に通い続けているリカコには地縁があった。もちろん湘南は地元ではないが、地元と同じくらいにこの土地を、そしてここに住む人たちが好きだった。
海の家も忙しい時間帯を抜けたので、リカコは皿洗いを終え、再び車に向かって浜辺を歩き始めた。太陽がじりじりと照りつけるこの時間帯の海辺も好きだった。
遠い遠い浜の端まで歩いていると、二人組みのヤンキーに声を掛けられた。
一人は金髪でTシャツに海パン。ネックレスがジャラジャラと音を立てそうに首からぶら下がっていた。
もう一人は長髪で、これでもかと体を焼いた真っ黒男。しかもジンベエ姿である。

(うわ。だっさ。)

ねえねえ。お姉さーん。一人じゃん。
俺らも東京から来て二人で寂しくてさあ。
そうそう。そういうわけ。よかったら遊ぼうよ。
いやー。あたし一人じゃないんで。
マジ? 良かった。じゃあ2対2で遊べるじゃん。
おま、それ最高。いえーい。
イエーイ。
いや全然。遊ばないですから。
ま、そんなこと言わないでさ。
お友達も紹介してよー。
ていうか、ちょ、離してください。

真っ黒男がリカコの腕を取ろうとしたので、リカコは両腕を上げて胸を隠し後ずさった。
その時、緊張するリカコの目の端に動く何かが映った。
金髪と真っ黒男のはるか向こうから、「キーン!」とか言いながら走ってくる麦藁帽だった。

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2015/05/21

男がリカコににじり寄ろうとした時、麦藁が高飛びのように足を踏み切った。



麦藁帽が全力で走りながら、避けろ避けろと手をちょいちょい左に動かすので、リカコは左向きに後ずさった。
真っ黒男がリカコににじり寄ろうと一歩踏み出したちょうどそのタイミングで、麦藁帽が高飛びのように足を踏み切った。
水平になったその姿があまりにも鮮やかで、まるで麦藁帽の体が空中に浮いているかのように、リカコの目にはスローモーションのように映った。

「トーっ!」と、麦藁帽が真っ黒男の背中に水平キックを見舞った。
突然の背後からの襲撃に真っ黒男はもんどりうって倒れこみ、顔面から砂に突っ伏した。
そこに勢いのついた麦藁帽の体が落ちてくる。全体重が乗った肘が真っ黒男の背中に突き刺さり「ぐえっ」と蛙のような声が青空に響いた。
麦藁帽は速攻で立ち上がり、ビーチサンダルで真っ黒男の頭をがしがしがしっと3回踏みつけた。

正義の味方 参上!

やり方がえぐいが、その言い方とあまりにも鮮やか過ぎる展開にリカコは目を見開いたまま動けなかった。
ここで事態が分からず呆然としていた金髪が、やっと仲間をやられたことに気づき、いきり立った。

○×△※☆▲*!○×△※☆▲*!われー!

最後の「われー!」以外はよく聞き取れない。異国の言葉のようだった。
金髪が威嚇しようと一歩二歩と足を踏み出すと、麦藁帽は前触れもなく「ドーン!」と前蹴りを放った。
この前蹴りがまた面白いように金髪の腹に突き刺さり、金髪は腹をかばおうと前かがみになった。
そのタイミングを逃さず麦藁帽が歩を進め、金髪の頭をわっしと抱えると2回、3回と左右の膝を入れた。

しゅみません。しゅみません。。。

金髪が即効で音を上げた。真っ黒男は起き上がって膝立ちになっていたがもう反撃する気力はないようだ。

・・・

この海岸で悪いことしたらいかんぞ。

麦藁帽は金髪と真っ黒男を正座させ、顔に似合わない説教を垂れていた。
この頃になると周りには野次馬が集まり、その内の何人かは麦藁帽の知り合いらしかった。
金髪は顔を腫らし鼻血が出続けていて、真っ黒男は砂だらけのままだった。
どう見てもやり過ぎの麦藁帽のくせに、真っ白なTシャツで腰に手をやり胸を張って説教する姿と、麦藁帽の幼い顔があまりにもアンマッチでリカコは可笑しくなった。

ね。もう。いいから。

リカコが麦藁帽の後ろから白いTシャツを引っ張った。

え、いいの?
いいって。人も集まってるでしょ。
あ、もういいってさ。

やっと許された金髪と真っ黒男がノロノロと立ち上がり、前かがみになりながら人ごみを分けて去ろうとした時

ねーさんに謝って行かんか!

とタケシのケンカキックが真っ黒男の尻を蹴飛ばし、野次馬からは歓声が上がった。

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2015/05/20

あの二人付き合ってるんだろう?と勘違いされてた夏の終わりに告白してくれた



そんなこんなで知り合ったリカコとタケシであったが、リカコはすぐにタケシと付き合い始めたわけではなかった。
しかしリカコが湘南にウィンドの練習に行けば、必然的にタケシに会うことになる。
毎週のように顔を合わせてお喋りをしているうちに、リカコはタケシも悪いやつじゃないんだと思うようになった。

話してみるとタケシとリカコは同い年だった。ただしリカコの方が早生まれだったので学年的には一つ上だ。
リカコは、タケシの最初のナンパの印象が強くチャラ男と踏んでいたのだが、話し込んでみると意外に上下関係に厳しい、礼儀正しい男だと分かった。
高校生のように線が細く華奢に見えた体は、初日の喧嘩からも分かるように全身バネのようなぎゅうぎゅうに引き締まった筋肉で覆われていた。
手下を従えた乱暴者でもなく、それは、地元の若者からタケシさん、タケシさんと親しまれていることからも分かった。
海の家の馴染みのおばちゃんも「タケちゃんなら知ってるよー」と笑いながら色々な話を教えてくれた。
そうして色々な話をしていく内に、最初、幼く見えた顔も麦藁帽子を取ってみればリーゼントの決まった男前に見え始めたのだった。
そうして、周りからすると「もうあの二人付き合ってるんだろ?」と勘違いされてた夏の終わり
タケシが告白してくれた。

リカコと付き合いたいんだ。

夜の浜辺を二人で歩いているときに、前を歩いていたタケシが振り向きざまに言ってくれた。

遅いよ、馬鹿。もう夏、終わるよ。
いや、リカコ。馬鹿ってなんだよ。
だって馬鹿じゃん。鈍感。
鈍感って。それOKってことだよな?
何回も聞かない!
・・・ん。
なに?
キス。
馬鹿じゃない。
ん。
んんん。

抱きしめられてタケシと初めてのキスを交わしていると、ぴゅーっと音が鳴ってロケット花火が打ちあがり、海の上で弾けた。
花火は5本も、6本も上がった。
そして花火を発射してる方角からわーっと若者集団が飛び出してきた。

タケシさん、おくてー
ん?とか聞こえたよー
ぎゃっはっはー

タケシを慕う若いあんちゃん達だった。

てめーら見てたのかー。
絶対、今日だと思ったもんねー。
まて。おめーらー。
ぎゃっはっはー

タケシが後輩を追いかけて走っていってしまった。
もう、ムードもへったくれもないなあと、リカコは笑うしかなかった。

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2015/05/19

タケシのことを思っていたリカコだが告白に踏み切れなかったのには訳があった



ずっとタケシを憎からず思っていたリカコだが、自らが告白に踏み切れなかったのには訳があった。
それはタケシの職業がテキヤだったからである。
タケシは神奈川一帯に根を張る伝統的な神農団体に所属していた。

正直に言って、普通の社会に生きてきたリカコにはテキヤとやくざの違いがよく分からない。
タケシが間違いのない良い男だというのは、周囲の評判からも自分自身が見てきたタケシの人柄からも理解はできる。
だが常識的な両親に育てられ、普通に高校から大学へと進み、一般的な生活を送っている自分がやくざと付き合うとは、これから一体どうなってしまうのか不安があったのだ。

二人が付き合い始める随分と前のある夜、地元のパーティの2次会でリカコはタケシに直接聞いてみたことがある。
もちろん、タケシが何を聞いても怒らずに教えてくれるとリカコは分かっていたからだ。

だってテキヤってやくざなんでしょ?
いや違うって。やくざは8、9、3。足して0。役に立たないの。
足したら20だし。なんの話か分からないよ。
花札だよ。
いま花札の話してないじゃん。
あー。うん。あ、やくざは博打で稼ぐ人。テキヤは商売で稼ぐ人。
ジェットスキーも商売なの?
そうだよ。海の家とかもそう。
縄張りとかあるんでしょ?
あー。まあ庭場はあるね。地元に関係ないのが海の家やったら面倒じゃん。
じゃあ縄張り争いもあるってことでしょ。
いや、そういうの滅多にないし。上の方で取り決めがあるからさ。
それってやっぱりやくざと同じじゃないの。
んーとだからほら、縁日で出店なかったら寂しいじゃん。
うん。
ああいうの。人が来ないようなとこまで生活物資と笑顔を届けるんだよ。
それ自衛隊の仕事でいいんじゃない。
あーなんか俺、頭が悪いからうまく言えないんだけど・・・
うん。
なんか日本人にはハレとケってのがあってさ
ハレの日ね。よく聞く。
そうそう。お祭りとかワクワクする所に行って喜んで物を買ってもらう商売
うん。
それがテキヤって思ってもらえると分かり易いね。
でも喧嘩するんでしょ。
しないって(笑)

この日、リカコはお酒を飲んで少々甘えていたのかもしれない。
地元で慕われてるタケシのことは大好きなのだが、結局、テキヤというものがなんだかよく理解できなくて、リカコは踏み切れずにいたのだった。

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2015/05/18

覚悟していたほどの痛みもなくタケシのアレはにゅるっと吸い込まれていった



リカコは夏の終わりにタケシからの告白を受け入れてしまった。
あんぽんたんだが真っ直ぐで優しい、自分なりに見てきたタケシの人柄に間違いはないと信じたからだった。

タケシの告白があってから数日後、今度の休みはドライブに行こうとタケシが誘ってきた。
あーこれはきっとセックスに誘われてるんだよねとリカコにも分かったが、気持ちだけではなく確かなつながりが欲しいと思っていたので、タケシの思いを受け入れることにした。

当日、タケシはオンボロの軽トラックをどこからか借りてきていた。
私のボルボでいいじゃんとリカコは言ったが、運転は男がするものだとタケシは譲らず、軽トラックでのドライブになった。
実際、好き同士の若い二人でいれば、車なんかなんでもいいのだ。その日は終日楽しい一日となった。
そして夕方、タケシがハンドルを左へと切り、車は緑色のカーテンが垂れ下がるホテルへ吸い込まれていった。

部屋に入ると二人は立ったまますぐに抱き合った。
リカコはタケシの腰に手を回し、タケシの腕もリカコの背中を覆った。
タケシの胸に深々と頬をうずめ、リカコは今のこの幸せな気持ちを満喫した。
ふっと顔を上げ互いの顔を見つめ合うと、二人はごく自然にキスを交わした。
今回は誰にも邪魔されないねと、何度も何度もキスをした。

数分もキスをしたがろうか。
タケシがなかなか次の展開に移らないので、リカコもどうして良いか分からず二人はそのまま抱き合っていた。
タケシの頬がリカコの髪に触れている。互いに目を合わせないその状態のままタケシが話し始めた。

あのさ。。。ちょっとあれなんだけど。俺、初めてなんだ。

えっと驚いてリカコが顔を上げると、まだ幼さの残っているタケシの頬が見るみる紅潮していった。

そんな見んなよ。
いや。うん。わたしも初めて・・・なの。

お互いに相手が経験豊富だと思い込んでしまっていたのだ。何か二人して笑ってしまった。
ベッドの傍でそれぞれが後ろ向きで服を脱ぎ、リカコはシーツに滑り込んだ。

リカコは初めてだったが、怖いとは思わなかった。
タケシの掌がリカコの乳房をまさぐり、舌が乳首を舐め上げると嬉しさがこみ上げてきた。
思わずタケシの頭を抱え込んでしまったほどだった。
タケシの右手がリカコの腹を滑り大事なところに降りていったときも自然と足が開いた。
タケシの指はぎこちなく、リカコは気持ち良いのかどうかも分からなかったが、初めて同士の二人は必死だった。

タケシはコンドームの袋を手に取ると、パッケージを破って、ゴムを亀頭の先端からかぶせていった。
リカコはあれが入るのかあと興味津々でタケシとアレを見ていた。

いいか
うん
あれ? えっと
いたっ。もうちょっと上。上。
ここか

リカコには覚悟していたほどの痛みもなく、タケシのアレはにゅるっと吸い込まれていった。

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2015/05/17

リカコはスマホの画面から顔を上げ車窓に流れていく工場の灯りを見つめた



5月の夜、遠藤リカコは東西線に揺られていた。

あの時のタケシ可愛かったなー(笑)
絶対にお前を幸せにするからなんて宣言してたし(笑)
あ、そうだ。もうすぐ誕生日だし、可愛いタケシ君にバイト代で何か買ってあげよう(笑)
あいつ、なにだった喜ぶかなー。靴とか? 麦藁帽(笑)
あ、やっぱシャツかなあ。

明日もきっと楽しい一日になる。
リカコはそう確信しながらスマホの画面から顔を上げ、車窓に流れてゆく遠い工場の灯りを見つめた。

遠藤タケシに続く
 
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