国広健一はかつて広島でソフトウェア業を営んでいた。
県の後押しもあって業務は拡張を続け、一時期は瀬戸内一帯で従業員200名以上を抱える大会社の社長であった。
それが本業のみに注力していれば良いものを、調子に乗って不動産や自動車販売などに手を染めてしまったことから転落が始まる。
おまけにその時期、国広は秘書の女性に手をつけ色事にうつつを抜かしていたために、経営に身が入らず会社はあっと言う間に傾いてしまった。
もっとも大きいのが不動産業の失敗で、その負債が本業を圧迫しまくっていた。
そんなところに救いの手を差し伸べてくれたのが、在京の独立系ソフトウェア会社である。
国広は間違いに気づいた。
全ての不動産と別会社を地元企業に売り払うので、残る負債について助けて欲しいとそのソフト会社へ泣きついたのだ。
国広も馬鹿ではない。正直なところ、新たに始めた事業などどうでもよく、やはり自分が手塩にかけて育てたソフトウェア会社、そしてその社員たちはなんとか守りたかったのだ。
在京独立系ソフトウェア会社にしても、ちょうど中国地方への進出を目指していたところがあり、ほぼ濡れ手に粟で商圏と社員が手に入るのであるからその流れで問題はなかった。
もちろん、東京から新たな社員は送り込む。その代わりに既存のソフト会社社員たちの地位と給料は保証することとなり、国広にも東京に開発部長という地位を用意した。
国広は自分の会社のバイアウトでごくわずかな金を得たが、この先の一生を暮らすにはまったく足りなかった。
そのため東京で部長という地位と給料を与えられるのであれば、これは喜んで行くしかなった。
身を投げ打って、会社は残した人物ということで、広島支社では今でも国広の人気は根強く残っている。
だから国広は中国地方の仕事にはなにかと顔を出し、みなに喜んで迎えてくれる広島支社に顔を出すを楽しみにしていた。
東京へは単身赴任のため、広島への出張のおりには妻子にも会える。
国広にとっての広島は今でも自分の砦だった。
さて、ここで話は岡山での説明会の打ち上げ後に戻る。
国広は居酒屋を後にすると、広島からやってきた営業の鈴木と2人でバーにしけ込んでいた。社長、女性社員を受け入れるのは構いませんが、追い出せっていうのはちょっと。
鈴木は国広が広島で会社を経営していたときからの生え抜きである。
未だに当時の癖が抜けきらず、国広の顔を見るとつい社長、社長と呼んでしまう。
聞く人が聞けばおべんちゃらの太鼓持ちに過ぎないのだが、国広にしてみればこの「社長」という呼び名は懐かしく、嬉しく、鈴木は可愛い部下のままに思えた。
追い出すっていうか居辛くするとかだな。
今はコンプライアンスとか言われますから。
訴えられるっていうのか。
無理をするとそういうこともあります。
なんだよお前。俺の言うこと聞けないのか。
いやそういうわけではなく・・・
昔、お前を拾ってやった。覚えてるか。
はい。覚えてます。
一緒に馬鹿もいっぱいやった。
それも覚えてます。
じゃ、なんとかできるだろう。
うーん。
かなり無理な注文である。
それに広島のことなら俺がなんとかするよ。
会社はそうでしょうが、訴訟は別でしょう?
まあ、そうだなあ。
いったい、あの上原さんは何をしたんです?
うん、まあ、それは聞くな。
実は国広と上原梢はできている。というか国広の東京での現地妻が上原なのだ。
まったく国広の女好きというところだけは直らない。
国広と上原はこれまでうまいことやってきたのだが、最近、上原が妙に跳ね返り、扱いが難しくなってきた。
上原は30代前半のバツイチなので、そろそろ人生設計も真面目に考えなければならないのだろう。
それは分かる。しかし、国広にとって揉め事は困るのだ。会社員としても家庭人としても。
それで、自分の息のかかった広島支社に上原を飛ばし、そこで辞めさせてしまおうと画策しているわけである。
東京本社でこれをやれば目立つが、広島ならなんとかなるだろうというのが国広の目論見だった。
じゃあ、こういうのはどうです。
お、なんか良い案があるか。
今、上原さんが進めてるプロジェクトがあるでしょう。
おう。
あれを広島じゃなく島根と山口でプッシュする。
うーん。それで?
島根か山口か反応の良い方に押し込んで、私ら広島支社は手を貸さない。
島流しか。
まあ、言葉は悪いですが。コンプラ的にはセーフでしょう。
悪くないな。よし、それで行こう。
悪者2人はなかなかの案ができたと笑いあい、バーボンのロックで小さく祝杯を上げた。
上原の考えなどまるで無視である。
この国広にはどんな結末が待っているだろうか。
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