上原梢は国広健一の東京マンションにやってきていた。
国広は東京での生活に、月島近くにある会社所有のマンションの一室を与えられて、単身生活を送っている。
部屋を与えられていると言っても、国広の給料から幾ばくかをこのマンションの支払いに当てられていると聞いたことがある。
高層階で運河を見下ろすこともできるモダンな造りの部屋だ。
上原の給料では一生かかってもここに住むことはできないだろう。
誰にも見られなかったろうなあ。
東京で、こんな夜中に知った人に会ったらそれこそビックリでしょ。
まあ、そりゃそうか。
男は浮気に対して細心の注意を払う。それは根が小心だからで、国広もご多聞に漏れずだった。
上原梢は先ほどやってきて、上着を脱いだ後、国広のために簡単なつまみを作り終えたところだった。
泊まれるのか? 少し飲むか?
国広が聞いた。
泊まろうと思えば泊まれるけど、飲むのはやめときます。
そうか。
国広は冷凍庫から氷を取り出しロックグラスに入れると、そこにバーボンを注ぎ、軽く口につけた。
黒い塗装のアイランドキッチン。間接照明に白い壁、銀の食器棚。琥珀色の液体が入ったグラス。
国広の姿”以外は”全てキマッて見える。
(なんでこんな男を好きだったんだろう?)
黒いソファに身を沈めながらキッチンに立つ国広を見やり、上原梢はこれまでに考えていたことを反芻した。
32歳。子供はいるけど私はまだやり直せる年。
この男は広島に妻子もあり、先々の人生も短い人。
私よりも確実に先に逝ってしまう人。
私が精神的に幼い頃にはなにか惹かれるものがあった。
力強く、強引で、傲慢で、でも憎めないところもあって。
それは事実。
だから後悔はしない。
でも、もう無理。
首の皺、お腹のたるみ、頬の沁み。
もう触られるのは、無理だわ。
薄暗い間接照明の黄色い灯りの下では時間がゆっくり流れているように感じる。
キッチンにいた国広が大股に歩いてやってきて、上原の向かいのソファに座った。
深々と座ったので、国広の大きなお腹が部屋着のハーフパンツの上に乗ってしまっている。
膝の下に見える細い足のすね毛ですら、今は憎悪の対象になってしまいそうだった。
一方、井川遥にも似た美人の上原が大きな目を見開いて自分を見ているものだから、国広は大きく勘違いをした。
今日は久々にいい関係に戻れるかもしれないと思い、半笑いを浮かべながら軽口をたたいた。
どうした。そんなに見つめて。
うん。。。健さん、もう終わりだと思うの。
唐突に上原が言った。健さんという呼称は、本来はベッドの上でしか使わない。
日ごろはプライベートでも部長と呼ぶのが通例だ。
なので国広は男と女の話だなと覚悟した。
もちろん良い気分ではない。
重苦しい雰囲気が部屋を支配した。
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