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2014/08/15

落ちる。落ちる。ただ落ちてゆく。何もすがれるものはない。



初めて豊洲の関連会社を訪れたときに玉田は驚いた。
そこは周りをマンションやアパートに囲まれたただの町工場だったのだ。
電気を点けることは禁じられ、狭い部屋に30人近くが押し込められていた。
千葉の印刷工場が忙しいときには工員として借り出されるのだが
そうでも無ければ、ただ一日を無為に過ごしていく。
そこは関連会社とは名ばかりの姥捨て山だった。

これまで勤めていた茅場町のオフィスとはあまりにも違いすぎる。

初めの頃、玉田は自分でなにかしらを生み出そうとあがいてみた。
だがその関連会社には、親会社から転籍をくらった高齢の役職者が多く
よそ者の玉田の行動は疎まれた。
そうこうする内に玉田は何もできなくなってしまった。

給料は元々もらっていた額の1/3になった。
いや、給料が下がるのは、転籍をのんだときに決まっていた話だ。
しかし、短大に進んだ2人の娘に何かとお金がかかる今
妻の由紀子は、どうするんだ、どうするんだと玉田に詰め寄った。
由紀子にしてみれば当然の要求であり、それほど責めたわけでもないのだが
かと言ってどうすることもできない玉田には妻の視線が痛かった。

玉田が最初、心の病に沈んだとき、妻の由紀子は随分励ましてくれた。
だから、僕ら家族は離れられない。何とか東京にいたい。
そういう思いでこの話をのんだんじゃないか。
そう言い出せない玉田は日々を鬱々と過ごしていた。

ある日、向精神薬とお酒を併用し錯乱状態になった玉田は
子供の見ている前で由紀子に手をあげ、暴れまわってしまう。
その日を境に妻と子供は家を出て行ってしまった。

そうこうしている内に、親会社が子会社を売り飛ばしてしまった。
勿論、関連会社に転籍している玉田にはなんの関係もないのだが
これによって玉田は完全に心のより所を失ってしまう。
もはや彼はDTPとは縁もゆかりも無くなってしまったのだ。

あの幸せな家庭は、華やかな生活は、どこに行ってしまったのだ。
傍目にみれば、絵に描いたような転落人生だった。


今日も玉田は豊洲から運河を渡り、木場駅まで歩いてきた。
永代通りまで出てトンカツ屋に入る。
定食を頼んでビールも1本つける。
テレビのプロ野球のセパ交流戦を横目に
昨日発売の青年誌を読みながら

「なんだってんだ、ちくしょう」

と大きな独り言をつぶやいた。
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コメント

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日々是好日

この話と関係ないんだけどさ、一般的にどう見ても馬鹿らしい女の甘言に乗せられて、近々に身を持ち崩しそうな男が居るんです。身近なところに。
男は女に甘いっての分かってるからさ、まあ、いいっちゃいいんだけど。こういうのって客観的に助言したほうがいいのかね。
悩ましい今日この頃です。
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