狭いマンションの一室に詰める金本龍男の携帯に一報が入ったのは午後6時過ぎだった。
くっそ。交代して速攻かよ。
龍男は食べかけのラーメンのどんぶりに箸を突っ込むと、慌ててテーブルの上に置いた携帯に手を伸ばした。
斜め向こうに座る子分の桐生をちらっと見やると、その顔にも緊張が走っている。この携帯が鳴るときはろくなことがないのだ。
着信画面を見るとセナと出ていた。
(良かった。兄貴からじゃねえ。兄貴はちょっとでも電話に出遅れると怒鳴るからな。)
龍男は桐生を向くと首を横に振り、口に残ったチャーシューを水で喉に流し込んでから電話にでた。
桐生は途端に興味をなくし、先ほどまで読んでいたエロ雑誌に再び目を落とした。
龍男はそれを横目で捉え、やれやれと思いながら、セナからの電話に集中することにした。
ほい。セナちゃん、どうしたー。
あ、たっちゃん。もうサイアクー。
セナのサイアクーはいつもの口癖なので、あまり気にする必要もない。だが兄貴から仕事を預かる身としては、女どもの愚痴を聞いてやること、それも龍男の立派な仕事なのだ。
うん。セナちゃん。どうサイアクー?
中出しよ。中出し。サイアク。
え、マジ? それマジ? まだいるの?
それが寝てるの。もうワケ分かんない。
は? いるんだ。
うん。
わかったすぐ行く。どこ?
円山の…
いつものところだな。何号?
201
すぐ行く。できれば逃がさないで待ってて。
龍男は事務所の番とその夜の送迎シフトを桐生に任せると、自分の車に飛び乗ってセナの待つ円山のホテルへと急いだ。
龍男は組から、ホテヘルと出会い掲示板の女たち、要は管理売春を任させれている内の一人だ。人から仕事をもらわなければ生きていけない、まあ言ってみればチンピラの部類と言えるだろう。
龍男はこの業界に入ってからそれほど長く経っているわけではないが、客が金を払わないだの、本番を強要しただの、中出しをしただのというトラブルには慣れていた。
つまりそういう客は多いということだ。
ただし、大抵の場合、龍男が駆けつけても客は逃げた後で、女の泣き寝入りとなることが多い。女が電話してくるときに男がまだ残っていて、しかもそこで寝ているというのはかなり珍しいケースだ。
(太いな。筋もんじゃないといいが。)
考えがそこに至ったとき、龍男は暴れん坊の桐生を連れてこなかったことを後悔した。が、ここは兄貴としての腕の見せ所でもある。再びチンピラ魂に火をつけ、自分を鼓舞することにした。
(やってやる。)
掌にじわんりと汗が噴き出してきた。ハンドルを持つ手にも、つい力が入った。
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