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2016/07/04

5月の夜、沢村志保は東西線に揺られていた。



5月の夜、沢村志保は東西線に揺られていた。
金曜の夜だというのに車内はさして混雑もしておらず、志保は大手町から席に座ることができた。
空いた席に腰を落ち着けてから、志保は軽く車内の人間を見渡してみたが、皆一様にスマホに目を落とすか、はたまた文庫本を読んでいるか、もしくは酔っ払い同士が小さな声でふざけた笑いを繰り返すか、それはいつもと変わらぬ金曜の東西線の風景だった。

(今週もなんとか一週間が終わったわ)

志保は一人、心の中でため息をついた。
岡山の田舎から神戸の大学を経て、日本の金融の中枢に職を得て2年あまり、志保の毎日はまだ覚えることの連続であった。
日本の金融の中枢と言えば通常は銀行が思いつくかもしれない。だが、志保が選んだのは株式の世界であった。
では2年前の就職のときに、志保に証券会社に対する思い入れがよほどあったかと言えばそうではない。
単に当時は証券会社が入社しやすかったからという理由だけで、そこに職を求めたにすぎない。
今やとても人気の職種とは言えず、証券会社の就職の倍率は銀行の10分の1、いや100分の1程度かもしれない。
だが、志保は受付などではなく、あくまで金融の最前線で働きたかったのだ。

もちろん、志保のような女性が総合職として就職できた証券会社は、今をときめくネット証券などではない。
会社もネットの方向に多少は手をつけてきてはいるが、まだまだアナログな運用の小さな証券会社だ。
こうした会社は兜町界隈にはまだたくさんあり、その中の一つ、Y証券に志保は勤めていた。

ただ、小さな会社とは言え現物や信用だけを扱っていたのでは営業が立ち行くはずもなく、会社もそれなりに商売の手を広げてきていた。
そのため、志保は就職して2年経った今でも、まだまだ覚えることが沢山あったのだ。金融の世界は奥が深い。
この一年の間、一緒に入社した馬鹿みたいに沢山居た同期はその大半が辞めて行き、また残ったものは地方に飛ばされ、ごくごく一部の優秀なものはフロアに回され、そして志保は相変わらず主に外回りを任されていた。
馬鹿でもなく、賢くもなく、ほどほどの人材として扱われている。いずれどうしようもなければ、受付にでも回されるのであろう。自分でも分かっているが、それが志保の今置かれた境遇だった。
どんなに小さくても、いや小さい会社だからこそ、金融の世界は厳しい。

(まあ、でも、あれね。金曜の夜に家に普通に帰れるんだから幸せかもね。)

今頃、会社ではシカゴ取引所の日経平均先物が上がっただの、下がっただので大騒ぎになっているかもしれない。
でも、それは今の志保には関係のないことだ。少なくとも月曜のマーケットが開くまでは、志保は仕事から解放される。一週間の仕事が終わったと、ため息が出るのも当然のことだった。

そして志保の想いは、家もしくは自分の隣の部屋で待っているはずの伊藤文哉に飛んだ。
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頑張ろう、熊本!

最新記事を並べなおしました。
僕みたいなエロもんが言うのもあれですが、マジで「頑張ろう熊本!」
俺みたいなもんも献金とかボランティアとか考えてるからな。船酔いなってるかもしれんが、乗り切れ。同じ日本人としてなんとかしちゃるけん。

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