俺は走っていた。
既に病院の駐車場は潜り抜け、大通りに入っていた。その大通りの歩道をただあてどもなく走っていた。
頭には何も思いつかない。ただ本能的に走っていた。既に息は上がり、足元もおぼつかない。歩道の小さな段差にすら突っかかりそうになりながら、それでもただ走っていた。
平日のビルから出てきたサラリーマンが一瞬目の端に俺を認め、速足で避けるのが分かる。
向こうからやってきた薄いカーデガンを着たOL二人組が、道の端に避けて抱き合い、俺が通り過ぎるのを祈るように待っている。お前らレズかよ。
息が荒い。わき腹がじくじくと痛む。さっきから心臓がドクドクと畝っていて喉から飛び出しそうだ。
がはーっ
と大きく息を吐いて俺は立ち止った。前かがみになって膝に手をつき2、3度浅く呼吸をすると、そこから背伸びをして大きく息を吸い込んだ。
簡単には息は戻らない。頭皮から垂れてきた汗が、顔を流れていく。おそらく1kmも走っていないのだがとにかくわき腹が痛い。
革靴でアスファルトを走ったために負担がかかったのか、太ももが震え、膝ががくがくした。2、3歩歩いて歩道の脇のガードレールに寄りかかる。
(一体なんなんだ。俺は何をしてるんだ。)
自分自身に問いかける。検査は。検査は、受けた。その後だ。受付で、あの、なんていったか、名前は忘れたが、あのお嬢ちゃんと話をしていたときに、ピンクの霧が襲ってきて、気が付いたら押し倒していた。俺の手は。手は彼女の胸をつかんでいた。
病院の受付だぞ。あれだけたくさんの人がいる中で俺はいったい何をしてるんだ。犯罪じゃないか。ありえない。そして。
そして。逃げた。逃げるしかない、そう思った。あの状況じゃあな。
あ、病院の金、払ってないな。江波になんて言う。いや江波にはもう伝わってるか。まずいな。まずい。
しかし。とりあえず落ち着くか。喉が渇いた。
周りを見渡すとファミレスが見えた。
あそこで落ち着くか。(ハラヘッタナ)そうだ腹が減った。考えてみれば昨日の昼から何も食べてない。(ノドモカワイタ)そうだ。喉も乾いてる。ファミレスで飯を食っていったん落ち着こう。
俺は震える足を引きずるようによろめきながら、ファミレスの階段を昇って行った。
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