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2005/10/21

約束



筋違いだし恨んだりなんかしないんだけどね。
まあしかし男と女の約束なんて、一体どこまで信用して良いものやら。

純子を女性として意識したのはいつの頃だかハッキリと覚えてないんだ。
年は2つくらい上だったように記憶してるけど…彼女は"Bar BUBBLE"にほど近いホテルに勤めていて、
仕事終わりにバーに寄っては馴染みのバイト連中と話し・笑い・帰って行く。
そんな素性の良いお客さんの一人だった。

たしか秋口の金曜日だったと思う「私、明日仕事が休みなんだよ」と言って寮の電話番号をメモに書いて渡してくれた。
寮に電話をかける時には決まりがあって、それにのっとらないとおばちゃんは取りついでくれないとか、
そんな他愛も無い話から教えてもらったんだと思う。
どうせ「僕が挑戦してみよう」とかなんとか調子のいいことを言ったんだろうね。


翌日、電話のことなんかすっかり忘れた僕は、朝からパチンコに精を出し、
あげくに手持ちのお金全てを一台に注ぎ込んだ。
今でこそ、土曜も日曜も関係なく銀行からお金を降ろすことが出来るが、
当時は土曜の2時を過ぎるとカードですらお金を降ろせなかった。
勿論6時まで待てばバイト先に転がり込んでご飯を食べることくらいはできたのだが、
何せ朝からパチンコに精を出した体は、それを待てなかった。

天の助けか部屋に戻るとテーブルの上に昨日のメモ紙がおいてあった。
僕はルールを思いだし、完全にそれにのっとって純子の住む寮に電話をかけた。
寮のおばちゃんの試験は上手くパスでき、電話は純子につながった。

「純子さーん、お腹減って死にそうなんですー」

純子は馬鹿ねーとも言わず、カレーの作り置きがあるからそれを持って行ってあげると言ってくれた。
でもご飯を炊くから20分は待ちなさいと言われた。
「ご飯ならうちで炊いてよう」とわがままを言う僕。
勝負事に負けた時は気持ちも寂しいもんだが、それ以上に空腹ってのは人を弱気にするね。


40分後、純子のカレーを腹に収めた僕は再び強気を取り戻す。
「純子さん、何かお礼をしましょうか」といって後ろから抱きしめた。
やめろ馬鹿!と言われれば冗談ですーで済むような微妙な距離。
純子は少し戸惑ったが、その状態が落ち着くと腕の力がすっと抜けた。
半分振り向いた顔が紅潮している。
甘いシャンプーの香りが、少しだけその匂いを強めたような気がした。

そっと胸に手を這わせてみる。
唇から吐息が洩れた。
横抱えにして顔をひねり、こちらを向かせてキスをする。
純子は唇も開かず消極的なキスで応えた。
少々強引に舌を入れると、純子はまたそれに応え、その舌はまるで別の生き物のようにうごめき始めた。
10分は濃厚なキスをしただろうか、舌を絡ませたまま僕は胸をまさぐっていた手をスカートの下へもぐり込ませた。
色気の無い厚手のパンティが手に当たった。

程なく僕の手は腿に挟まれてジットリとした湿り気を感じはじめる。
圧したりさすったりを繰り返していたその手を強引にパンティの中へ滑り込ませる。
純子に嫌がるそぶりは無く、僕のなすがままだった。
そして彼女の中心部に到ると、そこは指が滑るほどに濡れていた。
純子の体を膝から絨毯に転がしパンティを取ろうとした時

「ベッドに連れて行って…」 吐息混じりに純子が呟いた。

僕はカーテンを閉め、純子を御姫様抱っこしてベッドに運んだ。
二人で毛布をかぶり生まれたままの姿になっていく。
完全に裸になるともう一度二人は抱き合った。
純子の足もとの冷たさが、熱くなってる僕には気持ちが良い。

それから二人は日付が変わるまで愛し合い続けた。
その頃の僕は既に回数をこなすセックスには飽きていたのだが、
想い返すと純子とのセックスはいつも終わりの無いものだったような気がする。
ひたすらに優しく接し僕を大きくしては、それをまた自分で刈り取る。
そう、純子と過ごす僕の時間はいつも、母性の海原を漂うような心地良いものだった。


純子とはその後、会いたい時にだけどちらからか連絡を取り合うような関係になっていった。
その中でキスをしてる写真やセミヌードの写真を撮ってみたり、
ホテルで売ってるバイブを購入して試してみたりと、僕らはかなり積極的なセックスライフを楽しんだ。
彼女自らが過激な方向を望むことは決してなかったが
「はるおがしたいことなら何でも受け入れられるよ」と言ってくれ、その言葉の通り、
最終的にはいつも彼女自身が溺れ、自ら高みに昇っていった。

そんなプレーを続ける一方で、純子は僕の就職活動用にネクタイを選んでくれたり、
お守りを買ってきてくれたりと、ただのセックスフレンド以上に気を使ってくれていた。

そして大学卒業の一週間前の夜、純子からの電話で僕らはいつもの場所で待ち合わせ最後の逢瀬を楽しんだ。
彼女はいつもよりも激しくむさぼるように自らを高め、そして感極まって最後に泣いた。
僕もほんの少しだけ涙が出た。
これで大学生活が終わるのかなぁ…僕の場合はそんな感傷からだ。
その時、純子がしゃくりあげながら言った
「はるお君、私ずっと待ってるから」

えっ!?えっ!? 君、そこまでの想いだったのか!?

とその時初めて純子の不器用な恋愛表現に気づいたのだが、
いつこちらに帰れるかも分からない社会人0年生の僕は、
ただ弱々しく「うん」と答えることしかできなかった。


翌年の正月、地元に帰ってきた僕は彼女の住んでいた寮に電話をしてみた。
エロエロ気分でもう一度あのセックスをしたかったって訳じゃない。
都会での生活にやや疲れた僕は純子の優しさが懐かしくて、
本当に、ただ単純に彼女に会いたかったからだ。

安物だけど彼女の為にお土産も買って帰ってきていた。

でも電話に出た寮のおばちゃんはそっけなく言ったよ
「あの子は秋に結婚退職したよ」ってね。

ほえ?そ、そうなのか。
まあ、でも、純子が幸せになったんならば、そ、それで良いさ。
そうだよな。

僕は状況を教えてくれたおばちゃんに挨拶するでも無く用なしになった電話を叩き切ると、
背中を丸め、地方都市名産の饅頭を持って飲み屋に出かけた<土産は饅頭なのかよ!
(三村風…っていうか突っ込みどころ違うぞ)

 
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