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2005/10/10

花火



胸に残る可愛い子。
若い頃って妹扱いの子がいるじゃん。
やりチンの君にもさ、きっといると思う。
そんな話。



DARKな話ばかりが続くと僕はまるで変態小僧みたいだ。
桜の頃で思い出したので、ここに「愛ちゃん」の話も書きとめておこう。

葉桜が緑を強めていた季節のある晩、僕はいつもの"Bar BUBBLE"に居た。
カウンターに数名、奥のテーブル席にもグループのお客さんが入っていたが、
馴染みの常連が居なかったので僕はカウンターの空いた席に一人座り、
静かにグラスを傾けていた。

その時「この前はありがとうございました」と斜め後ろから声がした。
少女特有の可愛らしい声だったが、
知らない声だったし僕のことじゃないだろうと振り向きもしないでいたら、
後ろから背中をつんつんと突つかれた。

僕のことなのか?

と思って降り返ってみたが、そこに立っていたのはやはり知らない女の子だった。
何のお礼なのか分からず返事に困っていると彼女が順序だてて説明してくれた。
 


前の週末にも彼女は友達とこの店に来ていたらしい。
その日は店に居た女性全員に僕のおごりでカクテルが配られたそうで、
彼女にもその一杯が行き渡ったということだった。

彼女のことは全く思い出せなかったが、カクテルの大判振る舞いについては思い出した。
その頃の僕は店長や常連とよくくだらない賭けをしていて、
賭けに負けた者は罰ゲームボックスから籤を一枚引き、
そこに書かれた内容はなんであれ真面目に実行しなければならないのだった。

先週末の賭けに負けたのは僕で、
ボックスから引き当てた籤の内容は”店内女性全員にカクテルプレゼント”だった。

「ああ、そのことなら気にしないで。実は賭けに負けてね」と僕は照れながら言った。
彼女は「ええ、聞こえてました」と笑った。
その日、僕を含む常連連中がカウンターでやたらと賑やかなのを羨ましく見ていたんだそうだ。
今日はグループで来て奥に座ってったんだけど
たまたまカウンターを通りかかったら見かけたんで来たという。
ちゃんと挨拶に来るなんて偉い子だ。

「週末には大体いるし、羨ましいならいつでもおいでよ。歓迎するよ」と僕は言った。




社交辞令のつもりで言ったのだが、
愛ちゃんはその翌週から金土の何れかに必ず顔を出すようになった。

ここで愛ちゃんについて少しまとめると、
彼女は看護学生で髪型はベリーショート。
華奢な体にラフな恰好が定番だったが見た目に似合わず受け答えがしっかりしていたので、
おじさまだらけの常連の中一躍アイドルに上り詰めた。

徐々に店に馴染んだ愛ちゃんは得意のテーブルマジックを持ち込んで店で流行らせ、
謎の解けないおじさん達を煙に巻いては鈴を転がすような声で笑った。
その内、僕にはタメ口を使うようになり
「はるおー、ご飯おごってよ~」などと腕を絡ませて言うようになった。
ちょっと生意気だが随分と年が離れてることもあって、
可愛く、明朗快活な妹が出来たみたいで僕はむしろ嬉しかった。

彼女は店で毎年恒例になっている常連大集合の花火大会にも参加したが、
その夜も始終僕にまとわりつき腕を組んできた。
周りからは「お前は、はるおの女かー」とやっかみ半分、
むしろ僕に向けての非難があがったが、
彼女は「だって好きなんだもーん」と言いきり屈託無く笑った。

僕は腕を振りほどく理由もなく、
空いた片方の手でみんなにゴメンネのサインを送りながら、
照れて笑うしかなかった。




楽しい季節はすぐに巡る。

そしてまた春がやって来た。
この春に愛ちゃんは卒業だ。
その年はBUBBLEのバイト仲間で卒業する者が居なかったので、
店をあげて愛ちゃんの卒業パーティが開かれることになった。
常連の中でも特におじさん連中は大いに張りきり
「愛ちゃん卒業おめでとう」の垂れ幕まで作る始末だった。

そしてその卒業パーティの席上、愛ちゃんが初めて泣いた。
最後の別れの挨拶の時だ。

愛ちゃんは期間は短かったけど皆さんに出逢い、
仲間に入れてもらったことが嬉しかったと言った。
ここで見たこと、聞いたこと、経験したことは絶対に忘れない。
だから自分のことも忘れないで欲しいって言って泣いたんだ。

パーティも終わり店長が「はるお、お前送って行け」と言ってくれた。
愛ちゃんのアパートまで僕らは一緒に20分の距離を歩いたが、
彼女が泣きやまなかったし
僕もこういう時にかけるうまい言葉を知らなかったので会話はそれ程無かった。

もうこの先を曲がればアパートに到着という所で愛ちゃんは立ち止まり
「もうここまでで良いよ」って言った。
ポケットから何か取り出そうとする仕草が見えたけど、
その手は途中で止まり
「これまでありがとう、はるお兄さん」と言って敬礼し、
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のまま無理矢理に笑った。

愛ちゃんはそれを言い終えると角までダッシュし、
もう一度だけ振り返って手を振った。
僕も追いかけることはせずその場で小さく手を振って、
彼女が角に消えるのを見送ったんだ。


愛ちゃんの実家は県内だったんで、
その後も年に何回かの割合でお店に顔を出してたらしいけど、
僕とはすれ違いのままだった。

そして今や年月も経ち彼女の行方も知れない。
だからポケットの中身がなんだったのかは謎のままだ。
意外とティッシュやハンカチだったりするとがっくりだし、
謎は謎として残しておいて思い出のアクセントにすればいいと思う。


彼女はパーティの最後に私を忘れないでって言った。
だから僕は花火大会に行くと、今でも彼女の笑顔を思い出すんだ。

「はるおー」って声と一緒にね。
 
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コメント

非公開コメント

素敵だけどえっちじゃないかも~

う"っ(><)って。
ははは、そうですね。
そんな時もあります。

自分も同じような思い出があるから。これが気に入りました。。

ミスチルさん、それは良い思い出ですね(´∀`)
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